その昔清らかに流れくだる椋梨川に「ばんね淵(涅槃の淵)」と呼ばれる淵がありました。
ある乱世の時代、小字王子原にほど近い山麓にある小さな集落に、ひとりの王子が逃れてきました。
里の人々はこの王子を温かく迎え、心から崇めて暮らしていました。
それから幾星霜の後、ある日、王子のもとに童子が訪れました。
童子につき従って王子が着いたところは清流が渦巻く淵でした。
それにはかつて王子と縁を契った姫が待ち受けていたのです。
ふたりは互いにわが身を嘆き、離れ離れの時を取り戻さんと身を寄せ合いますが、
互いの一族が反目する乱世にふたりの願いを叶えることはむなしく、
ともに涅槃で結ばれと心に誓い、お互いの腕を取り合って紺碧の淵に身をおどらせました。
すると俄かに天はかき曇り、閃光一過したその瞬間、
猛々しい黒竜はあでやかな白竜に化身して昇天していったといいます。
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