びんご 古城散策・田口義之

■一乗山城と渡辺氏 (十二)
                                     (福山市熊野町) 〈138〉

一乗山城跡の 「 横井 」

 城跡を訪ねるには、福山駅前から鞆鉄バス「花咲堂」行きを利用する。「水源地」バス停で降りると、眼前に高い堤防と、緑の水面が広がる。福山市の近代水道の水源地となった「福山市上水道熊野水源地」だ。
 ここには元々論田池というため池があり、これを拡張して水源地とした。最近は使われていないが、当初はここから導管を佐波町の浄水場まで敷設し、浄化した上、自然流下式に市街地に給水した。池は城山の東麓に位置し、その起源が中世まで遡るとすれば、城の外堀の役目を果たしていたのかもしれない。
 堤防を突き当たり、左に道なりに歩くと、右手にお寺の山門が見えてくる。渡辺氏の菩提寺日蓮宗常国寺だ。初代城主渡辺越中守兼は熱烈な日蓮宗の信者で山田の領主となると共に、この寺を菩提寺として修築し、領内の住人、寺院を強制的に日蓮宗に改宗させた。中には改宗を拒否する者もいて、そうした者や寺は領内から追放した。「山田千軒皆法華」と言われる所以である。
 ここで寺を拝観するもよし、市指定の唐門や本堂左手の祖師堂には兼を初めとした渡辺氏歴代の木像が残っている。
 山門を素通りすると、道は上り坂となり、低い峠を越える。寺へ自家用車で参拝する場合は、この峠から右手に境内へ入る道がある。峠を越えると、渓流を越えた辺りに城跡の説明版が立ち、その先に城跡に上る道が左上に延びている。険しい小道を一気に上ると、細長い平坦地に出る。「七面明神下の段」と呼ばれる曲輪の跡である。右手に石段があり、上るとお堂が建っている。日蓮宗の守護神の一つ、「七面大天女」を祀る七面さんである。ここで道は二手に分かれる。社殿右側に道を採ると、堀切に架かる「土橋」を経て本丸、二の丸のある「城内」に至る。左に道を採ると、「横井」と「竪井」という城の水源に至る。中でも道の突き当たりに残る「横井」は、岩壁を人工的に刳り貫いて造った井戸で、今でも滾々と清水を湛えている。先年、地元の文化連盟が城跡を整備した時、井戸浚えをすると、底のやや上の棚状の中に小石が置かれ、水神を祀った跡と推定された。
 「横井」に至る道は、何条もの「竪堀」を通過し、戦国山城の険しさを実感できる。竪堀は畝状に波打ち、斜面は水源地に向かって絶壁状に落ち込む。くれぐれも足元に気をつけていただき、一人で行かないように心がけて頂きたい。なお、もう一方の「竪井」は、七面さんの社殿の東直下辺りに口を開けているが、水の出る気配はない。或いは「土牢」その他、別の用途に使われていた施設かもしれない。
 「竪堀」は、城の西側の斜面にも十数条穿たれ、人を寄せ付けない。城内に入るにはこの竪堀群に挟まれた、狭いルートを通って、山頂の本丸に通ずるようになっている。今は、痕跡しか残っていないが、往時には本丸、二の丸などの曲輪上には塀や櫓などの多くの建物が建ち並び、敵を防ぐための工夫が施されていた。山城跡を訪ねる際は、このような失われた建物・施設等を、
想像しながら登ることも大切である。

備陽史探訪の会
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