びんご 古城散策・田口義之
幡立山城跡 (府中市出口町・本山町)           〈024〉
幡立山城跡を望む
府中市本山町工業団地より幡立山城跡を望む
 府中の方から原稿の依頼があって、久しぶりに『西備名區』をひもといてみた。
 「幡立山城 此山頂に大石あり、幡立石と   云う。
  和田小次郎
   一本。桑田小次郎共云ふ。
  甲斐次郎光秀
   天文年中在城。後、常村へ移り光秀寺   開創す。」   
城跡略図 工業団地
城跡略図
工業団地 素晴らしい団地です。 
 本山の幡立山城跡について、文献で知れるのは、以上の『西備名區』の記述に尽きる。そこで、城跡の見取り図と、以前踏査した時の印象から同城跡の性格を考えることにする。
 幡立山城跡は、府中市街地の北に聳える亀ケ岳山塊の一支峰に残る山城跡である。亀ケ岳は、山頂窪地に潅漑池が築造され、池を取り囲むように聳える、幾つかの山頂によって構成されている。幡立山城跡はその山頂の一つ、東南に張り出した通称幡立山を利用して築かれた中世山城である。
 城跡に立って感ずることは、眺望絶景の地を占めていることである。山頂本丸からは、府中市街はおろか、東は遥か神辺城跡から井原方面まで見渡すことが出来る。また、天候のよい日には、山並み越しに瀬戸の海原も見通すことが出来る。
 しかし、中世の城跡としては、小規模なものである。山頂に築かれた三〇メートル程の主郭を中心に、南に二段の小曲輪をめぐらすだけで、到底独立した山城と言えるものではない。
 考えられるのは、幡立山から、南に張り出した尾根上に存在する八尾山城の出城としての役割を持った山城ではないか、と言うことだ。
八尾山城望む 工場の一部
工業団地より八尾山城望む
工業団地の工場の一部
 八尾山城は、以前このサイトで紹介したが、備後を代表する中世武士団、杉原氏の惣領家が拠った山城で、山頂の主郭を中心に四方に伸びた尾根上に多数の曲輪跡が残り、備後南部では屈指の規模と構造を持った山城跡だ。
 幡立山から八尾山城を望むと、その本丸は眼下に丸見えだ。「もしこの地に敵が陣取れば」、かつて八尾山城主が危惧しなかったわけはない。その上、この地に出城を築けば、本城の八尾山城以上の展望が得られる。これが、幡立山城が築かれた理由であろう。つまり、幡立山城は、八尾山城の出城として機能していたのだ。それは、城主の伝承にも現れている。和田小次郎のことは外に資料がなく不明だが、甲斐次郎光秀は、後に常村(芦品郡新市町)の今路城に移り、同地の光秀寺の開山となったという。今路城については、筆者は未調査であるが、新市町の故小林桂一郎氏によれば、亀ケ岳の新市分に残る山城跡だという。ということは、甲斐氏は、八尾山城の出城の城代として、これらの山城に在番していたのではなかろうか。『備後古城記』などの文献によれば、新市町の常金丸一体の山城跡には八尾杉原氏関係の武将の名を伝えるものが多く、甲斐氏は、これらの杉原氏勢力圏との連絡に当たるため、幡立山城や今路城に在城していたものと推定される。最後に城名の起こりとなった「幡立石」について述べてみたい。
府中市内周辺 府中市内周辺の景色
幡立山城跡へ登れなかったけれど、工場団地より府中市内周辺を見下ろすと、このような景色だと思います。
 この石は山頂本丸の中心からやや西にあって、平らに削られた上面のほぼ中央に、直径一五センチ位の穴が穿たれている。この穴が連絡用の旗を立てた柱穴と言われているものである。このような柱穴の穿たれた岩石が存在する中世山城跡は、他にも知られている。神辺平野周辺では、福山市駅家町服部の椋山城跡、芦品郡新市町新市の亀寿山城跡に類例がある。
椋山城跡の場合は、山頂本丸から南に下った出丸の岩盤に穿たれ、丁度八尾山城と幡立山城の関係を見るようだ。亀寿山城のものは、やや小さな石に大きめの穴が穿たれ、幡立山城や椋山城の場合と若干用途を異にするかもしれない。類例から見て、これら穴の穿たれた岩石は、伝承通り連絡用の旗を立てたものであろう。中世の人間や馬によらない連絡手段としては「のろし」が有名である。甲斐の武田信玄は、のろしによって上杉謙信の川中島進出をその日のうちに知ったという。また、狼煙の使用は、古代から知られている。
しかし、幡立山城と八尾山城のような短距離の場合は、「旗」や「幟」でも十分用をなすものである。旗や幟ならば色や模様を決めとおけば「のろし」の数倍の情報を伝えることができる。八尾山城の杉原氏の勢力圏が芦品郡から神石郡にまで伸びていたとすれば、このような遺構は各地に残っているかもしれない。今後の研究課題だ。
八尾山城 幡立山城
工業団地より北西の方向を見ると左に八尾山城跡。右に幡立山城跡です。
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