第141回     

  
 沼隈古民家探訪

再生された古民家内部。古い佇まいはそのままに、寛ぎ易い空間に。

 古民家ブームというのだろうか、各地で古民家が再生され、あるいは町おこしに活用されている。古民家を訪ねて庄原や三次に足を延ばしたこともある。
 しかし、かつての農村風景を今なおよく留めている地域が地元沼隈にもある。江戸期に遡る寄棟の家々と階段状に築かれた石垣が重なる横倉地区の風景は、どこか懐かしさを誘う。このような伝統的形態を良好に保っている集落は稀なのだそうだ。
 今回は縁あってNPO法人「ぬまくま民家を大切にする会」の方に再生した古民家を見学させていただいた。
 日本民俗建築学会によると、民家とは、「その地域で取れたものを使って、その地域の職人たちに
よって造られた住まい」をいう。同会が手掛けた古民家は29棟。(2010年現在)まさにそれを実践されている再生民家がある。
 部材は古材を活かせるだけ活かし、新たな松材は地元の持ち山から切り出されたものだ。瓦も壁土も地元産である。大工・左官のほとんどは地元の人であり、古くからある合力(こうろく)のシステムを使いたくさんの地域のボランティアが手伝い再生された。
 そのような再生古民家には自然と人が集まってくることだという。合力による再生は地域の人みなでその家を守り立てていくという図式も作りあげていくのだ。
 
 古民家が語る未来

再生された古民家内部。
丁寧に修復することで、今では斬新で趣き深い風情を醸し出している。
 
 古民家再生の目的のひとつは、この先「さらに一〇〇年住み続けること」。それはその地に人が留まることを意味している。
 二つ目は、「古材をリサイクルする」こと。日本家屋は手間をかければいくらでも再生可能だ。避けても折れても腐っても、伝承の技術で継いだり補修したりして使い続けることができる。
 三つ目は「古い技術の伝承」である。古民家を再生する過程で、若い人たちに古建築の高い技術を継いでいくことができる。
 しかし、古民家再生の目指すものは、それにとどまらない。
 たとえば、昔の家の構造というのは、隣近所との距離が近い。玄関に施錠することもない。縁側に腰掛けてちょいとよもや話もする。葬式ともなれば、台所は組内で仕切られる。近代社会では個人主義が叫ばれ、地域共同体は分が悪く一方であった。近所の干渉が煩わしくて郷里を離れる若者も多かった。しかし、地域社会が崩壊しかかっている今、個人主義一辺倒は見直されるべき時がきているのではあるまいか。
 古民家再生は、ただ古いものを再建するのではない。生活様式や暮らし方、家族のあり方や絆、地域のコミュニティ……、そこに住まう人を取り巻く様々なものの佇まいを整えることなのだと思う。
 文化財に指定されていなくとも、再生され実際そこに人が住んでいる古民家もまた立派な地域の遺産である。そこには、土地の先人たちが育んできた、郷土への愛とかけがえのない暮らしの知恵や技術が伝承されているのだ。




備陽史探訪の会
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