第115回     

  
 美しい発電所

 道路から見てよく目出つ板張りの建物。
 一見しただけでは、何の建物かわからない。

 2010年頃だったか、TSSテレビの『ひろしま百景』で、「山野発電所」が紹介されていた。ほんの数秒のことだったが、印象的で気になった。それは、よく通っていた道沿いにあり、何の建物か気になっていた建物だった。
 昭和6年に発電を開始し、今も現役だという。しかも中国電力のものではなく、福山電気株式会社の施設である。電気といえば中国電力しか思い浮ばなかったので、どういう発電所なのか興味をそそられた。
 山野方面へ県道21号線をひた走り、小田川を上流へとひたすら辿っていく。山野峡の手前、ゆるく左に道がカーブしたところに、その建物はある。昔の板張りの校舎を彷彿とさせる施設は、これまでも何度か目にしたことはあったが、道なりに走っていると水圧鉄管が見えないので、発電所だとは全く気づかなかった。
 山野発電所は水路式の発電で、水源は6キロ奥のダムから、岩盤にトンネルを掘って導水路で供給している。落差は187メートルもある。発電所の標準的な規模というのが何なのかよくわからないが、どうやら本格的な設備らしい。
 敷地に入り、見学を乞うと、快く許可していただいた。

 歳月経たものがもつ美しさ

磨き上げられた黒光した施設内は美しかった。

 建物はさすがに年季が入っている。しかし一歩踏み入ると、息を飲んだ。長年のマシン油で黒光りしている床は艶やかで、どこを見渡してもチリひとつ落ちていない。隅々にまで整頓が行き届いた構内には、清涼感さえ漂っている。
 低音で唸る水車発電機は芝浦製作所製。建物と同じく年代物であるが、長い歳月を経たものしか持ちえない、堂々とした風格を備えている。
 時代が移り、昨今ではあちこちで近代設備の老朽化が叫ばれているが、ここにはそんなマイナスイメージは微塵もない。80年もの長い歳月を大切に丹精込めて使い込まれた鉄のマシンがこれほど重厚な美しさをもつものなのかと、マニアでなくとも心が震える。
 古めかしい窓の向こうには、小田川の風景が広がっている。四季を通じて様々な表情を見せてくれるのであろう。
 ところで、どうやら、『ひろしま百景』に紹介されていたのは、発電所の対岸からのものだったらしい。県道のバイパスが河川の反対側を通っているので、市の公園の駐車場から発電所の全景が望める。板張りの風情のある建物に、山肌に長く真直ぐに伸びた白い水圧鉄管、はるか上には青い空が広がる。秋の紅葉の頃には、すばらしい眺めだろう。そして、この発電所が今も毅然とした美しさで稼働している施設であることが、なによりすばらしい。
 昭和の稼働であり、現役である。遺産といえるのかどうかはわからないが、そこに宿るスピリットは遺産級ではなかろうか。人とマシンがどうつきあうべきなのか、どう年を重ねていくべきなのか、深く考えさせられた。


備陽史探訪の会
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