第74回      

  
 蔵王のはね踊り

八幡神社で、みな揃ってはね踊り

 水野勝成が備後に入封した時、勇壮なはね踊りの鉦や太鼓が「軍鼓陣鉦」に似て士気を鼓舞するとして、鉦や太鼓を与えてこれを奨励したと言われている。各地の農村に虫送りや雨乞いのために古くから伝わる踊りであるが、やはり備後のはね踊りは特別であろう。これまで、田尻、沼隈、山手のはね踊りを観てきたが、蔵王のはね踊りを観る機会を得た。
 沼隈は昭和34年に、田尻は昭和46年に広島県無形民俗文化財に認定されているが、新たに平成20年2月、蔵王のはね踊りが認定された。
 蔵王のはね踊りは、雨乞いのため蔵王山で踊ったのが起源とされる。寛政6年(1794)には疫病の流行のため奉納したという記録も残っている。
 保存会は35年前に結成され、現在1900世帯以上が加入し、300人が踊り手として参加しているというから、堂々たるものだ。
 蔵王八幡神社のお祭りの日、3時頃より、各地区を回っていたはね踊りの一行が神社に戻ってきた。みな揃いの浴衣にたすき掛けし、素足に草履。鉦や太鼓を打ち鳴らしながら参道を登る。
 境内に入ると大胴(おおど)を手に持ちかえ、社殿を三巡する。その後、広場で円陣を組み、はね踊る。踊りは、かかとを浮かせ、腰を落してはねるように足を動かすのが特徴で、勇壮というより、雅びており美しい感じだ。隊形や所作は江戸時代後期の形態をよくとどめていると云う。
 地域を元気にする伝統文化

神輿をまわす男衆

 一支部が終わると、次の支部と次々と神社に戻ってきてははね踊りを奉納していく。あっという間に境内は人で埋め尽くされていった。
 はね踊りの次は神輿の還幸だ。社殿を巡った後に、広場での魂振。「まわせーまわせー」の掛け声と共に、男衆がぐるんぐるんと600キロの神輿を回す。その迫力や圧巻である。神輿回しは延々と続き、男衆は回しながら交替を繰り返す。最後は、激しい魂振だ。これにより輿に鎮座する神様の霊気が高まるため、激しいほど良いとされる。この日、神様もさぞ満足されたのでなかろうか。
 こういう力強い神輿担ぎができるのは、重量感あふれる立派な神輿と、それを担ぐ青年層、壮年層の男衆が充実しているからこそである。ここに、地域の底知れないパワーを感じる。
 平成20年10月には、広島文化賞も受賞し、保存会では、平成21年12月、無形民俗文化財認定記念事業として、はね踊り記念誌『蔵王のはね踊り‐市村からの語りかけ‐』を発行した。「踊りの発展と伝承のため、はね踊りの歴史と内容、またそれを育てた人の活動と歴史的地域環境を網羅した記念誌」であり、284頁にわたる大作だ。ここには後世に語り継ごうという意識がはっきり見える。この勢いなら蔵王はね踊りはますます意気盛んになっていくことだろう。


備陽史探訪の会
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