第34回     水野勝成の遺したもの (34)

  
 水野勝成の好んだはね踊り

田尻はねおどり(田尻八幡神社)
 十月は秋祭りのシーズンである。備後地方のあちこちの神社でお祭りがある。祭り囃子の鉦や太鼓の音を聞くと不思議と気分がそわそわと浮き立ってくるものである。
 シャンコココと独特なリズムで鉦や太鼓を打ち鳴らし、その名の通り跳ねて踊る「はね踊り」の起源はつまびらかではないが、古くから備後地方に伝わる雨乞い・虫送りための農村行事であった。
 特に沼隈郡(現在の草戸・田尻・郷分・松永なども含む)では、古くから踊られており、福山に入封してきた勝成は、勇壮で活気に満ちたはね踊りの鉦や太鼓が「軍鼓陣鉦」に似て士気を鼓舞するとして、沼隈各村に鉦や太鼓を与えてこれを奨励したと言われている。
 勝成の御座船である大転輪丸が田尻から出港するたび、田尻の若者ははね踊りで送りだしたともいわれており、如何に勝成がこれを好んでいたか偲ばれようものである。
 タカオカミ神社に発祥の地の石碑が建てられている田尻はねおどりは、昭和四十六年に県の無形民俗文化財に指定されており、鬼の舞や口上も含めた古式に乗っ取ったものである。七月にタカオカミ神社での虫送り、八幡神社の夏越祭での奉納はねおどり、そして十月の秋祭りでの奉納と、伝統文化を濃く伝えている。
 同じく古式を伝え昭和三十四年から指定を受けている沼隈のはねおどりは、近年まで各村で受け継がれていたようであるが、現在では沼隈の保存会が八月の「ひびきまつり」で公演するだけのようだ。
田尻はねおどり(タカオカミ神社)
 希望に満ちた伝統文化

山手はね踊り (山手八幡神社)

 田尻と沼隈のはねおどりが有名であるが、現在、郷分町、蔵王町、坪生町、春日町、大門町、山手町などにも保存会ができ、地域の小学生たちも巻き込んで活発に活動している。
 山手のはね踊り保存会は、山手六地区の老若男女三百人ほどで構成されている。
 山手八幡神社秋祭りの前夜祭、境内にひしめくように集まった人々。中心の円の中で保存会の面々が跳ね踊る。生命力あふれる若者たちの力強い跳ね、溌剌とした子どもたちのバチさばき、経験豊かなおとなたちの艶やかな身ごなし。腹に響くような鉦太鼓が境内に鳴り響き、ヨイソレーソレの掛け声が人々をひとつにむすぶ。
 そこには、端で見る者までも力づけられそうな、人がもつ根源的な強さがあった。まさに農民たちの「生きる」ための文化であったはね踊りの真髄を見るようだった。
 雨乞いや虫送りは遠い過去の話になってしまったが、その勇壮闊達なリズムと動きは地域コミュニティに新しい風を吹き込む推進力となりそうだ。将来、「よさこい大会」ならぬ「はね踊り大会」が備後の地で開催されるのもおもしろいと思う。
山手はね踊り (山手八幡神社)



備陽史探訪の会
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