なかよし夫婦岩
はじめに
みんなの力で、神石郡三和町坂瀬川に新しいお宝ができました。
  「なかよし夫婦岩」は、古くから語り伝えられてきた「道岩夫婦岩」の由来をもとに、 「水飲み久保」や丸沢田のヒルなど弘法大師さんにまつわる話を民話風に構成したものです。 吉田美幸さんのご協力で、見る人の心を和ませてくれるようなやさしい色づかいの、 ほのぼのとした絵を描いていただきました。
 大型紙芝居作成には、前回同様、地域の皆さんがたくさん参加して色付けやナレーションなどの作業を行い、 民話の温かい雰囲気の伝わる作品に仕上がりました。 引き続いて、その原作をもとにお話絵本をつくりました。 この挿し絵は、 「犬塚物語」と同様、 小林光子さんのやさしいタッチで描いていただきました。
 このお話絵本も、大型紙芝居とともに坂瀬川の新しいお宝として、地域の皆さんをはじめ、 多くの人々に末永く愛されることを願っています。
きょうはばばが話をしようかのう。きょうは「なかよし夫婦岩」というお話じゃ。
第1話
 むかし、むかし、このさとを流れる萩原川という川のそばに、 吉蔵とサワという若い夫婦が住んどったんじゃそうな。 吉蔵はサワといっしょにこの山の木の手入れをしたり、そばやあわを作って、つつましく暮らしとった。
 吉蔵はよう働くが底抜けのお人よし、サワはしっかり者で村で評判の明るい女じゃった。 二人は村でも仲のええ夫婦じゃったんよ。 じゃが、つまらんことでようけんかもしょうた。みなさんの家でも時にはするじゃろ。 「夫婦げんかは犬も食わん」て言うが、仲のええ証拠よ。
 秋の日差しに柿が色づき始めると、サワはその柿をもいではつるし柿を作ったんよね。 軒先につるされた柿は、だれが作っても同じようにできるはずなんじゃけどなぁ、 不思議なことにサワの作った干し柿は格別、誰が作ったのより甘く、おいしかったんよ。
 それを二人は、冬じゅう大事に食べよった。今のようにうみゃぁ菓子がある時代じゃないけぇなぁ。 山や畑仕事で疲れたとき、囲炉裏端で茶をすすりながら食べる柿は、なによりの楽しみじゃった。
第2話
 木が芽を出ず前、山全体が薄紫に見えるころがあるじゃろ、風はまだ冷たいのに、 自然はよう季節を知っとるものよなぁ。それが春の気配、いうんよ。 そのころには、柿も残り少のうなって、とうとうふたつだけになってしもうたんよね。
第3話
 天気のええ日じゃった。
「今日はちいと時間がかかるが、丸沢田の山の手入れでもしょうかいのう。」
 吉蔵は一山越えた丸沢田の山に出かけたねぇ。山の日暮れは早いけぇのう。 昼飯もすんだら、しばらくするともう日がかげりはじめた。
「今日はこの辺にしとこう。そうじゃ、ここの湧き水を汲んで帰って、サワにおいしい茶を入れてもらおう。」
 吉蔵は沢をおりていき、腰にぶらさげたひょうたんに一杯おいしい水をつめた。 ここの湧き水はなぁ、いつでも清らかな水が流れ出とって、夏の日照りにも涸れることがないんじゃ。 この水を飲むと元気になる言うて、村人はよく汲みに来るとこなんよね。 湧き水を汲んで、そばの岩で一休みしておったらなぁ、吉蔵の足にひるが食いついたんよ。 ひっぱっても、たたいても取れん。
第4話
 難儀しょうたところに、一人の坊さまが通りかかった。
「どうなさったんかのう。」
「ここで休んどったら、ひるに食いつかれて、痛うて痛うて…。どうようにしても取れんのでず。」
「どれどれ、こりゃあ、よう血を吸うとるもんじゃ。」
 坊さまがお経を唱えながらひるに触ると、大きいひるがぽろりと取れた。
「痛かったじゃろう。このどくだみの葉をもんで貼っておきなさい。」
「ありがとうございました。坊さま、この山道を歩いてこられたんじゃあ、さぞ、お腹もすいておられるじゃろ。 これでも食べてください。」
 吉蔵は弁当といっしょに家から持ってきていた干し柿をふたつ、その坊さまにさしだしたんじゃ。
第5話
 一方、サワは川で大洗濯。
「やぁれ、これがすんだら、最後の柿を食べることにしょうかねぇ。」
と、台所のザルをのぞいたら、あれま、縄だけが残っとって、柿はいつのまにかのうなっとる。 そこへ、吉蔵がもどってきたので、聞いてみたんよ。
「ここにあった柿、知らん?」
「知らん。そぎゃんとけぇ置いとくけぇよ。犬でも食うたんじゃろ。」
「犬は柿なんか、食わん。」
「ほんなら、サワいうサルが食うたんじゃ。」
「なんで、私が…」
「食い意地がはっとるけぇ、そねぇによう肥えとるんじゃ。」
「いいや、ふたりで食べよう思うて、間違いなくここに置いといた。 ほんまはあんたが食べたんじゃないんね。」
「よう、しまい忘れる女じゃから、どっかにいれて忘れとるんじゃないか。 物忘れが激しゅうなったら、年でぇ。」
「何言よるん。そりゃあ、あんたのことよね。黙って食べとってから、 そうようなこと言うて、私のせいにして、知らん顔しとるんじゃ。」
「うるさいわいっ。知らんいうたら知らん。」
第6話
 ほんにつまらんことでけんかを始めたふたりは、座布団をけとばすやら、ザルをなげるやら。 貧乏な家じゃから投げるものとて、たいしたもんはないんよ。 サワは悔しまぎれにクドの灰を思いっきりぶちまけたもんじゃから、吉蔵はなんと真っ白けの灰かぶり。
 吉蔵は吉蔵で、囲炉裏の消し炭をサワの顔に無理やりなすりつける。 真っ黒けの顔にされたサワは真っ白けの顔の吉蔵を吹き竹を持って庭先まで追いまくるやら、 まあ、大げんかになってしもうた。
第7話
 大騒ぎしょうるとこへ、さっきの坊さまが「これこれ、けんかはやめてくだされ。」
 きょとんとずる二人に、坊さまが言うた。
「実は、柿を食べたのは私なんじゃ。私は諸国を旅ずる僧で、空海と申します。 吉蔵さんがおなかをすかせた私に、親切に柿を恵んでくれたんじゃよ。それも二つもじゃ。 大事な柿じゃったのに、悪いことをしましたなあ。」
「とんでもないことを…。お坊さまに食べていただいたんなら、うれしいことでございます。 それならそうと、はじめに言えばいいものを、あんたちゅう人は、もおっ。」
「お前は勝手にわしを悪者にしてからに…。お前の悪いくせじゃ。」
 サワと吉蔵は坊さまをそっちのけにして、またまた言い争いをはじめたんよ。
「まあまあ、わけがわかったのだからこれ以上けんかをするのは、よしなさい。 けんかをしても何もいいことはなかろう。けんかばかりしておると、 だんだん相手が憎らしくなって、いやになっていく。 そうするうちに、お互いの人相も悪うなって、人からも嫌われるようになるだけじゃ。」
第8話
 そういうと、坊さまは不思議な力で大きな岩を動かし、二つの岩を向かい合わせに並べたそうじゃ。 驚いて、声も出ない二人に
「こっちが夫岩、あっちが妻岩じゃ。向かい合って仲良く互いの顔を見なさい。 片方が笑顔じゃったら、怒った顔はできまい。なぁ、そうじゃろう。」 と、おだやかな笑顔でさとされたんじゃそうな。
第9話
「あんた、ごめんねぇ」
「いやいや、わしこそ、悪態ついて悪かった」
 二人は、素直になって仲直りじゃ。手を取り合ってにっこり。 ふと、見ると坊さまの姿はどこにもなかったということじゃ。 この坊さまは後に「弘法大師」としてあがめられた「真言宗」の「空海」さんじゃったそうな。
 それから二人はけんかをしそうになったら、このふたつの岩を拝み、 笑顔で顔をみあわせ、一生しあわせに暮らしたというお話じゃ。 それからこの岩は「道岩夫婦岩」と呼ばれて、この岩に手を合わせると、 家庭円満になると言い伝えられているんよね。いまでも、たずねてくる人が大勢おるんよ。
第10話
 この話にはなぁ、おまけがあるんよ。
 しばらくして、子どもの無かった吉蔵とサワにかわいい赤ちゃんができたんじゃ。 そうすると、いつのまにか、夫婦岩のそばに小さな「子岩」ができとったという話じゃ。 行ってみんさい。今もちゃあんと、三つの岩が仲良く並んどるけぇなぁ。
 ほうじゃ、もひとつ、おまけがあった。 吉蔵に食いついて難儀をさしたひるはなぁ、不思議なことにあれからはだれの手足に取り付いても、 血を吸わんようになったそうな。 これも、「この山道を歩く人が難儀をせんように」という弘法大師さまのありがたい思し召しなんじゃろうねえ。
 それと、丸沢田の湧き水もなぁ、弘法大師さまがお飲みになったというんで、 「水飲み久保」と呼ばれ、後には小さな祠をつくっておまつりするようになったんじゃ。 今もええ水じゃ言うて、汲んで帰る人が絶えんのよ。
さてさて、ばばの話はこれでおしまいじゃ。よう聞いてくれて、ありがとありゃんした。
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