白血病顛末記
平成14年2月
 突然に「慢性骨髄性白血病」を告げられると、さて自分自身がどうすればよいか、 うろたえてしまうのは、恐らく私だけではないと思います。
 勿論、死刑の実刑判決の宣告と同じだからです。 藁をもすがる思いで助かる方法を模索しはじめます。 分厚い医学書にもほんの1,2ページしか載っていません。そして30%は2年以内、 残りも4,5年以内に必ず死ぬ、と書いてあります。とうとう4冊も買い込んで一言一句洩らさないよう必死で読む。 しかしどれも同じことしか書いてありません。 まぎれもなく自分が死ぬのです。いくら祈っても願ってもなるようにしかならないことを、 自分がだんだん納得して行きます。
 しかし、ここで一言云いたいのは、医学書は市販されているものであり、 医師だけが読むとは限りません、むしろ医師より患者の方がよく読むのではないでしょうか。とくに必ず死ぬ、 の「必ず」がどの本にも書いてあるのは、万に一つの可能性を否定する、全く配慮のないショッキングな言葉ではありませんか。 その「必ず」の一言がどのくらい重みをもつものか、患者本人でなければわからないことです。
# 七割は 助かると言う一方で 佳人薄命言うが 気がかり
# 世界中 戦争 地震 台風と 思えば小さきわが身 わがこと
# 「しまった!」と思うは いつもこんなもの 生命保険加入してなし
 どうせ隠し通すことはできない。この上は潔くしよう。 家族や会社に心配や迷惑を最小限に抑えるよう工夫しなければならない。 さまざまな思いが次々と頭を駆け巡る。
 これまでは確かに我武者羅な生き方ではあったが、私なりの夢もあり、 そして、我ながら思い返せばロマンに満ちたものであったと、悔いはない。 しかし何もかも中途で断念することの無念さはたとえようもありません。
# 避けられぬ現実なれば これよりは 敗将の作法 いさぎよくせん
# 明日十時入院せよとの連絡は あわれ昔の赤紙に似て
# それぞれに戦いし二十世紀 結末を 人と言うもの哀れと思う
 「会社は30年もワンマン社長で通して来た。これがいけなかった。 後継者が育っていない。」
 「わが社には世界中を驚かせるようなプロジェクトがあり、しかしまだ完成していない。 そのほかにも多くの隠れた技術的な財産が惜しい。そして何より今のスタッフを散らすわけには行かない」 「借金は銀行などには勿論たくさんあるが、中に8年前特許をライセンスした提携会社には 2億円の保証金を2年後に返還しなければならない。」
 そこで思いついたのが、この提携会社(大手)○○緑化に、そっくり会社を譲ることでありました。 そしてその提案を必死の思いで文書にして送ったわけであります。 ところが、「貴社の緊急事態には当社としては当惑している、これは社長の経営放棄であり、無責任である、 また社長の病気は無関係なことであり、2年後に迫った2億円の返還について具体的な計画を示せ。」と言う返事が返ってきたのであります。
 今までの十年近い提携とは何であったか、如何に大手とは言えこの横暴にして無礼きわまる手紙を読んで、 俄然、私は何としても生き延びたいと言う気持ちが湧き起こってきたのであります。 やはりこれで人を頼るべきではないことが身にしみてよくわかりました。
# わが命よりたいへんは会社かな 白血病なんて それどころじゃない
# 打ち明けりゃ 貸し金とれぬと あわてだす
 落ち着けよ君 土壇場はわしじゃ
# なるようにしかならぬなり 結局は 人間万事 塞翁が馬
 治療はハイドレアなどの服用とインターフェロンの注射でしたが、 副作用が強いため入院して投与されました。副作用とは風邪引き症状のようで一週間ばかりフラフラでしたが、 殆ど食欲がなくなり、見る見るやせて行くのがわかるようでした。 それに頭髪などは全部抜け落ちて鏡に映る自分は不思議な顔であり、またつくづくと悲壮な気持ちになりました。
# 副作用 脱毛したる頭見て「すいませんナアー」と主治医 のたまう
# ケツさわりゃ 知事までクビの今の世に われ看護婦のケツに囲まれ
# 友もまた いったん死んで助かって 話よく合う年頃なれば
 副作用は2ヶ月ほどで落ち着きましたので、インターフェロンの注射は自分ですることを練習して退院する事となりました。 また頭髪もまた生えてきて不思議にも以前より黒毛が増え白髪がごま塩になって、 返って若返ったようなのはこころうれしいことでした。
 体調も次第に回復し、社長の実務に差し支えはなくなり、毎日出社することとなりました。 しかし、慢性骨髄性白血病の場合、落ち着いている白血球の数値が一たん上昇をはじめると急性転化と言って手の施しようもなく、 いよいよ2ヶ月ほどで終焉となることは医学書で知って居り、 主治医より指示されたインターフェロンの自己注射をせっせと毎晩打ち続けました。
# もう少し もう少しじゃと村人を だまくらかした 仙養狐
# コンコンは野狐なれど 遠鳴きの ゴメンゴメンは 仙養狐
# おしまいにびっくりするよな ひと花を 咲かせたいなどまだ思ってる
 時々病院で看護婦に打たれる注射は何ともないのに、 不思議にも自分でやる注射はとても痛くて、ときには一人で汗をかくほどでありました。 これが650本ほどになった、ある日中止の指示が出、2ヶ月ほど間を置いて、 噂に聞いていた特効薬(新薬)のグリベックを投与されることとなりました。 白血病の宣告を受けて2年5ヶ月、スベリ込みセーフで間に合ったわけであります。
 グリベックと言う新薬はすでに急性転化にかかった患者でも治してしまう症例もあり、 副作用も少ないと言う、我らにとっては涙が止まらないくらい素晴らしいニュースなのです。 即ち、死神からの解放であり、私、仙養狐めが、またもや生き返ったわけなのであります。
 ところで私が白血病と戦っているうち、会社の方はどうなったのか。これを是非聞いていただきたいのであります。 会社は芝生全般に関する事業で特許工法や特殊な芝を主に扱い生業を立てている従業員わずか24名の小さな会社であります。
 しかし、目標は大きく「ゾイシアンジャパンKK」と言う横文字の社名の所以はターゲットをアメリカに向けているからであります。 従業員は僅かとは言え選りすぐりのスペシャリストばかりであります。しかし得意とするゴルフコースの造成工事は皆無となり、 売上の半減は覚悟して居ましたが、社長の病気のため、かえって奮起したのは社員全員でした。
 確かに売上は落ちましたが、倒産続出のこの不況の中を小さい工事ばかり拾い、 なんと5000万もの黒字を計上したのです。よく考えれば「社長って会社の何なのさ」であります。
# 九度山の 真田の如く隠遁し やがてアメリカ 天下をねらう
# 面白や 霧隠居り 猿飛も 三好清海 金棒をつく
# 十勇士 筧十蔵 そのほかに望月六郎 穴山小助.......
ここは九度山ならぬ仙養ヶ原(神石郡油木町近田)ではありますが、強烈な個性をもった勇士は揃って居ります。 アメリカからのコンタクトもはじまりました。わたくし、何なのさの社長ではありますが、 いったん死を覚悟してまた助かったのは全く痛快千万で、これから何がどう言う展開になろうと、 全てが面白くて堪らないことでしょう。
# 気がつけば ウンがついてる パンツかな
ページトップへ
【文責】 宮池 誠文
住所 〒720-1622 神石郡油木町大字近田835
tel 08478-2-2121
e-mail yosifumi@zoysian.co.jp
Copyright(c) 2000-2003 bingo e shotengai. All Rights Reserved.